◆ゼノフォビアはなぜ発露するのか。

   ゼノフォビアは普段人々の意識の中に潜んでいるが、外国人の存在が脅威として感じられた時は表に出て来る。ではゼノフォビアが表れて動き出すのはいつなのか。「ゼノフォビアは経済的貧困から来る怒りの表明」という言説はよく言われるが根拠がない。そのため打倒しても何度もよみがえる議論という意味で「ゾンビ理論」と形容されている。排外的ナショナリズムの台頭は打ち捨てられた人々の怒りや苦しみの表れによるものではない。むしろ多様な階層を含む文化的意識の問題である。人は経済的利害ではなく非経済的信念によって政治的・社会的行動をとっている。2000年以降日本と韓国で発露されたゼノフォビア現象を取り上げて比較してみる。両国で表れたゼノフォビアとしては、日本のヘイトスピーチ、韓国の朝鮮族問題がある。

日本の在留外国人のうち外国人労働者数は、2017年10月末現在で約128万人

(雇用者数の約2%)

※厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめによる

 このうち、就労を目的とした在留資格(専門的・技術的分野の在留資格)を有する者は約24万人(全体の18.6%)。その他の部分では、技能実習、資格

外活動(留学生等)といった、本来は就労目的ではない在留資格を有する者が多く、これは就労目的の在留資格を有する者よりはるかに多い結果となっている。

※技能実習約26万人(全体の20.2%)、資格外活動(留学生等)約30万人(全体の23.2%)、特定活動(難民認定申請者を含む)約2万6千人(全体の2.1%)

技能実習、資格外活動(留学生等)といった、本来は就労を目的としていない在留資格の外国人労働者の方がはるかに多くなっている状況

 日本政府は外国籍居住者を「移民」とは認めていないため、国レベルで適切な社会統合政策はされていない。

日本では外国人が差別を受けることも多く、各種の人権侵害なども多発している。日本で外国人の人権が保護されなかった制度的理由として、国レベルで外国人対策を拒んでおり外国人の法的地位が危うい状態だった点と、社会的弱者と女性に対する認識が保守的なままだったからである。

 

戦後、日本の人文社会科学は人種・民族問題に冷淡であり、差別研究が不十分だった。日本では人種・民族の研究が本格的に始まったのは90年代に入ってからのことだった。それも欧米から「エスニシティ」という概念が輸入され、その重要性が認知されるようになっためであった。2000年代前半をピークにある種の流行のように在日コリアンやアイヌ、日系ブラジル人などを対象とした研究が増加したものの、人種差別そのものにフォーカスした研究はきわめて少なく、またすでにエスニシティに対する関心すら薄れてしまっていた。

 

戦後日本の歴史上、裁判所は人種差別(の撤廃)について、国や自治体への責任を認定したことは一度もない。

日本では、国際人権条約と憲法以外に、差別を禁じる国内法が存在しないため、国レベルでの外国人政策は、出入国・在留管理政策に限られている。そのため生活者として外国人に焦点を当て、社会の分断を防ぐ社会統合政策(共生政策)はほとんど行われてこなかった。

国レベルで、社会統合政策を積極的に実施しなければ、外国人と日本人の間の軋轢が生じ、社会が不安定化するおそれがあるため、今後外国人が増加するにしたがって、より政策の必要性は高まる。

よって、日本人と外国人の間の交流増加・相互理解を促進させるための政策(地域ベースの協議会、日本語教育等)の積極的な実施が必要になる。

 

「MIPEX(移民統合政策指数)」という指標がある。これは移民に関する各国の社会統合政策の質を測るものだ。

日本は他国に比べて総合スコアが低く、全8指標の中で特に低スコアなのが「政治参加」と「反差別」の分野であり、教育・反差別の分野での評価が低い。

 2020年12月には、5回目となる調査結果(MIPEX2020)が公表された。具体的には、52か国の移民統合政策を対象に、8つの政策分野(労働市場、家族呼び寄せ、教育、政治参加、永住、国籍取得、反差別、保健)について、167の政策指標を設け、数値化した。数値化の作業は、各国の移民政策研究者が協力して行っており日本からは、近藤敦名城大学教授と筆者が参加した。

 総合的な評価では、スウェーデンが1位(86点)となり、フィンランドが2位(85点)、ポルトガルが3位(81点)という結果だった。4位以下10位まで、カナダ、ニュージーランド、アメリカ、ノルウェー、ベルギー、オーストラリア、ルクセンブルクとなっている。アジアでは、韓国が19位(56点)で最も高く、日本は35位(47点)だった。

 日本の評価は、分野別にみると、労働市場59点、家族呼び寄せ62点、教育33点、政治参加30点、永住63点、国籍取得47点、反差別16点、保健65点となっており、保健や永住、家族呼び寄せが比較的高く、反差別、政治参加、教育が低い評価となっている。

 

ドイツでは、1年以上の滞在許可を有する外国人等に対し、ドイツ語及びドイツの法律・歴史・文化等を学習する660時間の統合講習の受講を義務づけ。そのほか、フランスでも400時間のフランス語学習が義務づけられており、これらのほとんどは公費負担となっている。