韓国エンタメ旋風の真相 日本が学ぶべき成功の秘訣

 

「韓国」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか。2024年にみんなのランキングにて行われた「韓国といえば思い浮かぶものランキング」という調査がある。この調査によると3位には「BTS」、4位には「KPOP」がランクインし、更に9位には「韓国ドラマ」がランクインするという結果であった。

この結果からわかることは、日本の人々は韓国のエンタメを好み大衆的な認知度も高いということだ。

世界的に見ても人気のある韓国のエンタメコンテンツは、果たしてどのような方法でその高い評価を得たのだろうか。韓国と日本のエンタメについて、国の政策、企業の取り組み、そして世界を席巻するKPOPの面から日本と比較しながら述べていく。

 

1. コンテンツ産業に関する政策

 

初めに、国の政策の面から調査し得た情報をまとめ説明していく。

韓国には、日本の文化庁や観光庁、スポーツ庁に当たるような「文化体育観光部」という国家行政機関が存在する。韓国は1990年に文化部というものを設置して「文化コンテンツ産業の育成」に力を入れ始めた。

それ以降、2008年に文化部に体育と観光業務を統括しできたのが現在の文化体育観光部である。

文化体育観光部のホームページによると、文化体育観光部では、文化芸術、コンテンツ、体育、観光等の文化コンテンツの関連分野の政策を立て、その実現のための様々な施策を実施している。

2024年の主な制作推進計画は「文化で幸せになる社会、K–カルチャーが導くグローバル文化大国」といったものだ。この文化体育観光部の傘下にある機関が「韓国コンテンツ振興院」である。

韓国コンテンツ振興院とは、韓国コンテンツ産業の振興のために2009年5月に設立された政府系の総括振興機関で、通称「KOCCA」と呼ばれている。

韓国コンテンツ振興院のホームページによると、放送、ゲーム、音楽、ファッション、アニメーション、キャラクター、漫画、IP、新技術融合コンテンツなど、様々なジャンルの制作支援、企画、創作・制作、流通、海外進出、企業育成、人材育成、文化体育観光、研究開発、政策金融支援と政策研究を行っている。

この韓国コンテンツ振興院は、Kコンテンツの成長を通じて文化強国を実現させ、国民の幸福に貢献することを掲げている。

韓国のコンテンツに関連する機関は主に①ファンドを利用した間接機関と②専門機関に分けることができる。

①のファンドを利用した間接機関は、コンテンツが持続的に生成されることによりコンテンツ産業の基盤を作ることができるのだ。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)や韓国映画振興委員会(KOFIC)は②の専門機関に分類され、これらは持続的で安定的な支援が可能であるからこそコンテンツ産業を成長させることができる。

 

次に、2022年の韓国コンテンツ産業支援政策調査報告書を参考に、法律の面から見て国策について述べていく。

コンテンツ産業に関連する法は、コンテンツ産業全般に渡って規律している法、コンテンツ産業の振興に関する法、そしてコンテンツ産業の公正取引に関する法に区分することができる。

韓国政府は、1999年に制定した「文化産業振興基本法」をきっかけにコンテンツ産業育成事業を開始し、その後2002年には「オンライン・デジタルコンテンツ産業発展法」を制定した。

そして2010年6月には、ITや産業環境に合わせ同法を「コンテンツ産業振興法」に改正した。この「コンテンツ産業振興法」を元に、①コンテンツの基盤づくり、②KPOP、ゲーム、ドラマ、映画、ウェブトゥーンなどコンテンツ代表ジャンルの育成、③コンテンツの魅力拡散、④コンテンツで新市場開拓、という4つの支援政策を立てている。

文化体育観光部はこれらの支援政策を立てコンテンツの売上、雇用、輸出を行うことでK–コンテンツの魅力を全世界に拡散しようという考えである。

 

これに対して日本のコンテンツ産業を見ていく。

日本では主に文部科学省と経済産業省がコンテンツ産業に対して取り組んでいる。

まず、日本は国策として「クールジャパン戦略」というものを掲げている。

クールジャパンとは、世界から「クール(かっこいい)」と捉えられる日本の魅力であり、その魅力を世界の「共感」を得ることを通じ日本のブランド力を高め、日本ファンの外国人を増やすことで日本のソフトパワーを強化することを目的としている。

日本は世界で3位のコンテンツ大国であり、東西洋のコンテンツが融合しているのが大きな特徴だ。

それにもかかわらず、日本の魅力をアピールし海外需要を取り込むことができていないのが現状である。

文化庁は課題として、「日本の魅力」を「産業」に転換し、経済再生・地域活性化につなげることが必要であること、金融機関からの資金調達が困難であることなどを挙げている。

戦略的海外展開を行うための対応は、①日本ブーム創出、②現地で稼ぐ、③日本で消費という流れだ。①に関して、アニメやドラマ、音楽番組などのコンテンツを放送メディアが配信することで日本ブームを演出し日本の魅力を効果的に発信していく目的がある。

②に関して、①で述べたコンテンツを商業施設やイベント・ライブ会場において関連商品を販売するなど、小売流通業との連帯により販路を開拓していく目的がある。

そして③に関して、秋葉原や渋谷、原宿、京都など、日本の観光地に外国人観光客やビジネス客を集客し、最終的にインバウンドを狙うことを目的としている。

これらによる日本での消費と異業種連帯によるインキュベーションの仕組みが組み合わさることで最終的には国富の増大を目指しているのだ。

 

ここまで述べた内容を見ても、韓国と日本で、国が行っている政策にあまり差がないように感じた。

コンテンツ産業に関して事前知識のなかった私は、「韓国はコンテンツ産業専門の機関があって、日本よりも力を注いでいる」のだと漠然と想像していた。

韓国はKPOPを始め、映画やドラマも良質なコンテンツが多く世界中で話題になっているからだ。

だが、国策について調査したがそこに存在している韓国と日本の違いは、韓国には国家行政機関がしっかりと存在している程度で、あまり大きな差は存在しなかった。

それならば、韓国のエンタメ事業やコンテンツ産業はどのような理由で飛躍したのだろうか。

 

2. 韓国政府の文化政策

 

韓国と日本で大きく異なっているのは、政策に対する考え方だ。

日本では、政策は起こったものに対するフォローが主なものであった。

だが韓国では「半歩先のことに手を打つ」のが政策の役割なのだ。元々は韓国も起きたことへのフォローであったが、1997年にIMFショックが起きて以降考え方は変わった。この当時に半歩先のことといえば、ITとコンテンツビジネスであった。

そんな中文化政策が本格的に行われ始めたのは、1998年から第15代大統領を務めた金大中大統領からである。

金大統領は無形の文化を商品として産業化することを目指し、「コンテンツ産業の育成」と「芸術の振興と生活化、産業化」に関する予算を増やしていった。

その後の大統領も文化政策を進めていった。

第16代大統領の盧武鉉大統領は金大統領に続き世界五代文化産業国を目指し、第17代大統領の李明博大統領は2008年に文化ビジョンを提案、第18代大統領の朴槿恵大統領は2012年に地域発展5カ年計画、2015年に地域文化振興基本計画を発表し、第19代大統領の文在寅大統領時代にはコンテンツの産業基盤が整えられ、現在の第20代大統領尹錫悦大統領に至るまでに文化政策は急激に発展していった。

文化政策を行う中で特徴的である点は、「人を育てる」というような「基礎」の部分に重点的にお金を投じたことである。

まだ成功するかもわからないコンテンツにお金を投じることは民間企業が行うにはリスクが高く難しいことであった。しかし国の予算で投資をすれば、失敗してもその経験を踏まえて次につなげることができるのだ。

国という規模で行うからこそできることの例として、インフラの整備、IT企業や映像、音楽産業の支援、人材を育てるために学校や国営のスタジオを作るといったことが挙げられる。

このように現場の声を大事にし、コミュニケーションをとりながらやってきたことが今の韓国のコンテンツ産業の姿につながっているといっても過言ではない。

重要なことは、韓国政府は人を育てたり設備を用意したりといった基礎を整える役目、ある程度育ったら民間企業に委ねる、といった関係だ。

後にKPOP事業と関連しながら国と企業の取り組みについて詳しく述べていく。

 

3. 日本政府の文化政策

 

韓国のコンテンツ市場規模は世界で7位、日本は3位だ。

この順位を見て意外に思う人は少なくないだろう。

自分が日本に住んでいるからそう思うのかもしれないが、普段生活している体感やニュースでは韓国のコンテンツの方が流通しており規模も大きいと感じていたからである。

さらにコンテンツ消費量について見てみると日本は世界2位であった。日本が海外展開してこなかった理由はまさにこれである。

日本はコンテンツ消費量が高いからこそ、海外展開をしなくても日本市場だけで満足されていたのだ。

文化庁長官の都倉俊一氏は、日本全体の文化予算の少なさが問題であると述べている。

そもそも文化庁とは戦後に重要文化財を守るためにできたものであるため、今までの文化行政は伝統文化(重要文化財)への支援を手厚く行っていた。これからはその支援先をポップカルチャーへと転換していくべきだと述べている。今後の日本の目標は海外展開と人材育成を柱として考えている。

実際に、キャラクター、アニメ、漫画、ゲーム、ドラマ、実写映画、個人クリエイターなどは、日本が海外展開していきたい文化として成功した事例だ。

 

4. コンテンツの作り方の違い

 

2023年4月13日に投稿されたライターの飯田一史氏の「エンタメ産業、世界で通用する『韓国』と『日本』の『圧倒的な違い』」の記事を読み、コンテンツの作り方の違いについて述べていく。

日本の放送業界は昔から、放送局から制作を受託した会社が権利を持っているわけではなく、テレビ局中心の制作スタイルであった。初めは韓国もこのようなスタイルであったが、2000年以降ドラマの制作会社が自ら権利を持ち収益を得るようになった。

この制作スタイルに変更したことで韓国の放送業界は国外市場が大きな収益源になり、第一次韓流ブームが起き海外にも流行していったのだ。

 

この制作スタイルであるからこそ、韓国はドラマを制作する際に国外の需要を前提に、人気がある俳優や監督、脚本家を揃えて制作しようとしたが、国際的な人気を獲得したがために制作費が高騰するという問題点があった。

更にこの頃、インターネットの普及によりテレビの視聴者=視聴率は減少傾向にあり、放送局だけではその予算が工面しきれなかった。

この問題に対してとるべき選択肢は2つあり、可能な製作費に合わせて作品の質を下げるか、制作会社が制作費を負担するか。

韓国がとったのは、制作会社が制作費を負担する代わりに部分的に作品の権利を得ることであった。

うしたおかげで更に制作会社が国内外の企業とネットワークを獲得し、次につなげることができた。

 

グローバル戦略の面から違いを述べていく。

日本はレコード会社傘下の音楽レーベルが主導であることがほとんどであるが、韓国は自社の中にレーベルがあるのが一般的である。2000年代の日本では芸能と音楽産業が分業する体制は変わらなかった。

これに対して韓国は早々に音楽はネットでストリーミングやダウンロードして聞くものというふうに変化し、マネジメント会社が主導して自社のアイドルを放送に出したりすることで宣伝していくという形をとっている。

ここで重要なのが、韓国は分業体制が確立されているということだ。

経営面で見ていくと、日本はすり合わせ重視のインテグラル型であるのに対し、韓国は組み合わせ重視のモジュラー型である。モジュラー型とはどういうものなのか。

わかりやすく述べると、日本は国内で培われた芸術家や職人の技術をすり合わせるスタイルが特徴であるが、韓国はいろいろな才能を組み合わせて1番いいものを作るというシステムで勝負している。

どの国で作られたか「made in〜」よりも、誰にどんな思想で作られたのか「made by〜」を重視している。

 

5. 韓国エンタメ業界の成功要因

 

韓国エンタメ業界の成功要因を、IT mediaにより2021年12月6日に投稿された「韓国エンタメ業界に学ぶグローバル成功の鍵」という記事を参考に述べていく。

韓国のエンタメ業界は世界規模で大成功を遂げているが、アーティストやタレントの才能、作品性の高さだけではここまで成功しなかったはずだ。ではなぜここまで世界を席巻するようになったのだろうか。

韓国エンタメ業界の成功の鍵は主に①世界標準のコンテンツ制作力、②徹底したローカライズ、③アーティスト・タレントへの徹底的な“アメとムチ”、④デジタルによる「パリパリ」なアップデート、⑤マルチチャネルでのマネタイズの5つに分けられる。

 

初めに①世界標準のコンテンツ制作力とは、楽曲やダンスなどの全てにおいて韓国国内だけではなくグローバルで通用するコンテンツ制作を、韓国国内のクリエイターのみならず世界有数のクリエイターらも交え制作していることだ。数億円規模の制作費をかけ最先端の映像技術を使うことによって、世界標準で質の高いコンテンツを数多く輩出することができている。

 

次に②徹底したローカライズに関して、世界で通じるコンテンツを作り続けながらも、各地域や国での展開に向けてはしっかりとローカライズすることを忘れずに行っている。

アーティスト自身の語学力が他国のアーティストに比べて高いこと、制作会社や事務所に税務・法務、マーケティングなどでのスペシャリスト集団が揃えられていること、「A&R(アーティスト&レパートリー)」というアイドルの育成からプロデュース、世界観の作り込みまでを行う韓国エンタメならではの職業が存在することが特徴的である。

 

③のアーティスト・タレントへの徹底的な“アメとムチ”に関して、韓国でのアーティスト・タレント間の競争はどの国よりも激しく、相互の競争によって有能なタレントのみが勝ち残るというシステムを採用している。

他方で、成功した暁には演者も裏方へも多額の報酬が支払われるという徹底したアメとムチのシステムは、若者のモチベーションの源泉となっている。

 

④のデジタルによる「パリパリ」なアップデートとは、「パリパリ」という言葉は韓国語で「早く早く」と言った意味であり、韓国ならではの「パリパリ」の姿勢でSNS上のファンの反応を的確にキャッチし常に改善していくモデルのことを指している。

生放送の音楽番組の放送中にSNSでの反応をリアルタイムで分析する会社まで存在し、実際にそれらの情報を活用し、今後のプロモーション活動や衣装などを改善する参考にしている。

ここで私が感じたのは、韓国はデジタルを活用した事業戦略が上手だということだ。

例えばBTSが所属しているHYBEという事務所は、KPOPファンであれば絶対に知っているであろう「Weverse」というファン交流サイトを運営し、更に近年では競合の「V LIVE」というサイトも買収し、ファン向けの自社独自の大規模SNSプラットフォームの構築に注力している。

そもそも、これらの韓国エンタメの躍進を助けたのはインターネット環境にあると言われている。

金大中大統領の時代にインターネットなどの通信環境が改善され、2002年には韓国は世界トップレベルのITインフラ環境を完成させた。そして、YouTubeが開設された2005年が日本と韓国の大きな分かれ道である。

日本のエンタメ業界は著作権を気にして動画公開にすぐには手を出せなかったが、韓国はいち早くこのようなプラットフォームを活用し始めた。

こういった意味でも韓国特有の「パリパリ」文化は、エンタメ業界を躍進させるのに重要な要素であったと言える。

 

最後に⑤のマルチチャネルでのマネタイズとは、タレント事務所や映像制作会社がコンテンツ制作による制作だけでなく、アパレルや化粧品会社などとコラボすることによって収益を得る方法である。

実際にブームを巻き起こした韓国ドラマの「愛の不時着」では、ジャガーやショパールなどの多くの企業とタイアップすることで製作費の約2割の収益を得ており、それによりさらなる大胆な製作費への投資が行えているのだ。

 

6. KPOPというエンタメ

 

今まで国の取り組みの面や韓国独自のコンテンツの制作の仕方などを述べてきたが、よりわかりやすく理解してもらうために馴染みのあるKPOPに絡め説明していく。

ここからは2021年に朝日新聞記者の守真弓によって書かれた、公益財団法人日韓文化交流基金フェローシップ報告書「韓国エンタメ躍進の源流を探る」と言う論文を参考にする。

 

①  国(政府)の取り組み

まず国(政府)の取り組みに関して述べていく。

韓国は国内の音楽市場が小さいからこそ、早い段階から海外に目を向けるしかなかったのだが、ここが国内の音楽市場が大きい日本との大きな違いである。

韓国が目を向けた海外にはもちろん日本も含まれている。国が行ったこととして、KPOPを日本に進出させるために日本の関係者を招いた「ショーケース」を開催した。

最初に述べたKOCCAという機関の補助金の支給対象はコンテンツを制作する中小企業に限られていたため、日本というよりも関心は東南アジアなど新たな開拓地域にあった。

総じて言うと、政府がやるべきことは自力でいくらでも成長できる大企業ではなく、わずかな支援でも本当に必要としているところにきめ細やかに届けることが重要という考え方だ。

 

②  民間企業の取り組み

次に国(政府)の取り組みではなく、民間企業の取り組みについて述べていく。

SMエンタテイメントという企業を知っているだろうか。KPOPファンでなくても認知度が高いであろうこのSMエンタテイメントは、他の事務所に先駆けて海外進出を目指し、現在のKPOPにも通じる重要な制度を作っていった重要な事務所である。

初めにSMエンタテイメントが作り上げたのが、「CT(カルチャー・テクノロジー)」という仕組みだ。

この「CT」とは、ジャニーズなどの日本の芸能事務所の養成制度の仕組みを参考にして、トレーニング、マネジメント、プロデュースなどを1つの会社が総括しているものであり、韓国のエンタメ企業特有の仕組みであると言える。そして更にKPOP独特の制度として有名な「練習生制度」もSMエンタテイメントが生み出したものだ。

SMエンタテイメントの代表であるイ・スマン氏は、2011年の聯合ニュースのインタビューで「欧州や欧米には組織的なトレーニングシステムが整っていない。

SMは練習システムを通じて幼い年から練習をさせて、攻略した。

それが、アジアの長所でありSMの長所だ」と語っている。だがこの練習生制度には問題点もある。

それは、10代の若者に対して精神的・肉体的な負担が大きいことだ。

練習生になれば毎朝スタジオに通い深夜まで歌や踊りの練習といった果てしなく続く日々は10代の若者にとって大きな負担である。

実際に欧米では、トレーニングシステムが整っていないだけでなく、児童労働に関する法律が厳しく高いレベルのレッスンができない。若者が守られている環境ではより良い作品は作れず、若者に負担のある環境では良い作品が作れるという現状は「KPOPのジレンマ」と呼ばれることもあり、非常に興味深いと感じた。

 

③  スターを支える「ファンダム」

KPOPの文化を調べながら驚いたのが、圧倒的なファンダムの存在だ。

韓国のファンは「組織的で猛烈」で「一糸乱れずに行動する」といった特徴がある。

そのファンの行動の例を挙げると、ファンが主体となって独自のコミュニティを形成、無償でアイドルを宣伝しPR、誕生日を広告で祝福、推しのアイドルの名前で莫大な寄付など、規模の大きい応援をファンが主体的に行っているのだ。そして最も特徴的なのが、「マスター」と呼ばれる、ファンの中でも特に影響力のあるトップファンのような存在である。

マスターは本格的なカメラを持ちアイドルたちのステージ上での姿や空港での姿を捉え、その高画質の写真をSNS上に投稿、そして自ら写真を加工し作られた非公式のグッズを販売するといったことを無償で行っている。

ここまで1人のファンがまるで仕事のようにアイドルを応援する仕組みは、韓国以外見られないであろう。

 

では、なぜそのような文化は日本にはなかったのだろうか。その理由は、韓国の芸能事務所は日本の芸能事務所より、著作権の管理に厳しくないからだ。著作権の管理が緩い韓国の芸能事務所は、ファンがアイドルの画像を使って「二次創作」をすることを許している。

その結果、日本で活動するアイドルよりも世間に触れる機会が多い韓国のアイドルの方が知名度も上がり、ファンになっていく人々が増えるという現象が起こるのだ。

こういった点も、KPOPが国内市場だけでなく海外でも人気を博す現状に繋がったのではないかと考える。

 

④  KPOPアイドルを目指す若者たち

みなさんは日本のAKB48やジャニーズなどのアイドルとKPOPアイドルにそれぞれどのような印象を持つだろうか。一般的に、日本のアイドルは「成長型」、韓国のアイドルは徹底的な実力主義の「完璧型」であると言われている。前に述べたように韓国のアイドルを目指す若者は事務所に所属する練習生となり、毎日朝から晩まで厳しい訓練を強いられる。実際にKPOPアイドルとしてデビューできるのは本当に一握りであるのが現実だ。

だが最近、デビューできなかった練習生が俳優やミュージカルなどの他の芸能分野に流れるため、韓国の芸能のレベルが上がっていく現象が起きている。

また、表舞台に立つ仕事ではなく、プロデューサーやYouTuberになるといった選択肢もある。

学歴社会の韓国で、子供が一般的な進路に進まず芸能の道を進むことに対する親たちの意識の変化も見られている。

7. 韓国のエンタメを代表するCJグループ

 

私はこの新聞記事を書く際に、ソウルの上岩洞にある「デジタルメディアシティ(Digital Media City)」といった、映画資料館や放送局が集結したエリアに実際に出向き写真を撮って来た。

その写真を参考にしながら韓国の放送局についてまず説明し、その中でも韓国の文化を広めようと先駆けてコンテンツを作り続ける「CJグループ」という企業について詳しく述べていく。

 

まず、韓国の放送局について述べる。韓国には「KBS」、「MBC」、「SBS」の地上波3社が主にそれぞれのネットワーク網を通じて地域放送を行っている。実際にデジタルメディアシティにこれらの3社は位置している。

KBSメディアセンターの入口の画像

SBS上岩プリズムタワーの画像

MBC本社ビルの入口の画像

 

デジタルメディアシティに到着すると、まず1番建物が立派で目立っていたのがMBC本社ビルであった。MBCは韓国文化放送と呼ばれ、1961年に開局をし1969年にテレビ放送事業に参入した。キャッチコピーは「いい友達MBC」というものである。有名な音楽番組といえば、「SHOW 音楽中心」、「SHOW CHAMPION」だ。

1階に入るとすぐに、放送の闘争に関する歴史などをまとめた資料などが目に入って来たのが印象的である。首から社員証を下げた関係者と思われる人物が、せわしなく出入りしている様子も伺えた。

そしてMBCのビルのすぐ近くに立っていたのがSBSである。

SBSは元々「ソウル放送」という名前で1990年に設立し、2000年に現在の「株式会社SBS」という名前へと変更した。コーポレートスローガンは「一緒に作る喜び」であり、キャッチコピーは「私が作る新しいメディアの世の中」というものである。1993年にAMラジオ、ステレオ放送を開始した。有名な音楽番組は「THE SHOW」や「人気歌謡」といったものがある。

そして今まで述べた2社とは少し離れたところに位置するのがKBSであった。

KBSは「韓国放送公社」という名前であり、1927年に開局、1961年に地上波テレビ放送が開始された。多チャンネルであるが、地域ごとに視聴できる系統が異なるのが特徴的である。KBSの有名な音楽番組には「Music Bank」が挙げられる。

これらの地上波3局以外に紹介したいのが「CJ ENM」という企業だ。

CJ ENMのロゴの画像

CJ ENM CENTERの入口の画像

 

CJ ENMのビルもデジタルメディアシティに位置しており、1階のロビーには立ち入りできるようになっていた。

CJ ENMで放送している番組の画像

機材が置いてある前の画像

 

入ってまず目に入るのが、リアルタイムで放送されている番組を映し出した壁だ。CJにはたくさんのチャンネルがあることが見てわかる。ロビーにはカフェやスタジオの入口、そしてCJ ENMが運営する韓国のケーブルテレビであるMnetにより放送されている「MUSIC BANK」の観覧の待ち合わせ場所などがあった。

では、そもそもCJグループとはどのような企業なのだろうか。CJジャパンの公式ホームページを見ながら説明していく。元々CJは食品工業でトップクラスの会社であったが、1993年以降イ・ミギョン副会長らがCJグループのメディア部門を設立し、エンターテインメント事業への進出を始めた。その後シネマコンプレックスの「CJ CGV」やケーブルテレビの「CJメディア」、音楽番組やライブコンサート事業を行う「MNETメディア」など次々にエンタメ関連事業を立ち上げていった。

映画事業に関して、イ・ミギョン氏は当時無名であったポン・ジュノ監督に着目し支援を続けていた結果、今や「パラサイト 半地下の家族」でアカデミー賞4冠するまでに身を結んだ経験などもある。そしてテレビドラマでは「愛の不時着」や「トッケビ」なども制作し、CJは確実に韓流ドラマブームを作った要因の1つであると言える。これらの実績から、イ・ミギョン氏のことを「韓国映画にとってのゴッドマザー」と呼ぶメディアも存在する。

そして音楽事業では、2012年から海外で開催する世界最大級のKカルチャーフェスティバルである「KCON」を世界各国で開催した。CJの広報部は、こう述べている。「当時からKPOPはアジア人だけではなく、様々な人種や年齢層からの関心が寄せられていたが、地域的にも韓国とは遠いため、アーティストに直接会うことができなかった。アメリカ法人を通じてこのような需要があることを確認し、韓流事業を行っている韓国唯一の大企業として、KPOPをはじめとする韓国の大衆文化を海外に知らせる機会だと判断し、KCONを開催した」これ以外にも、海外進出が困難な中小企業所属のアーティストにとってはKCONへの参加を通じて海外のファンに直接会い、広報する機会になるといった利点もある。このようにCJグループは、韓国の映画やドラマの成長を支え、KPOPの底辺を拡大する大きな役割を果たしているのだ。

 

ここまで、韓国のエンタメ業界について、国の政策、企業の取り組みを述べつつ、日本との相違点を交えながらKPOPと絡め説明をしてきた。最初に私が疑問に思っていたことは、「韓国のコンテンツが世界的に人気であるのは、国の政策の影響が大きいからなのか」といった点だ。今回実際に調査をし学んだ答えとしては、必ずしも国の政策の影響だけではないということである。韓国のコンテンツ産業は確かに発展しておりレベルの高いものであるが、日本には日本のコンテンツ制作の良さがあり、実際に日本のエンタメを参考にしてできた韓国のエンタメも存在する。昨今韓国で起きている日本の平成ブームや昭和歌謡、レコードブームなどもその一例だ。韓国のエンタメが世界で人気を博している要因として、国の支援はあくまで後方支援であり、緻密に考えられた政策だけでなく韓国人の潜在意識や、インターネット環境、運、優れたプロデューサーなど、一概に挙げることは難しい。だが今回エンタメ産業について調査をしたことで、これからの日本のエンタメ産業をどのように活性化させていくべきか方向性が定まった気がする。